マズローの欲求5段階説をご存知の方は多いと思います。人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されていて、下位に「生理的欲求」や「安全欲求」などがあり、最高位には「自己実現欲求」が位置する、というものです。マズローは、下位の欲求が満たされていなければ、上位の欲求を満たすことは難しいと説きました。
マズローの説は、モチベーション理論の中では世界で最も知られている理論のひとつです。もちろん、食べる、寝るなどの「生理的欲求」が満たされることは必要だし、生活するにも仕事をするにも安全が確保されていることは大事なことです。しかし、実は、最近のモチベーションに関する調査研究では、マズローの説を支持するデータはほとんど見られません。
Edward Deci博士に代表される最新の説では、欲求の段階よりも、より普遍的な3つの心理的欲求を注目すべきだと言われています。その3つとは、自律性(autonomy)、関係性(relatedness)、そして実力(competence)です。
自律性に対する欲求とは、自分に選択する余地があり、自分のやっていることは自分の意思と決断に基づくものだと感じたいということです。自律性の欲求を満たすために、リーダーは次のことを心がけるとよいでしょう。
- 目標と期日を伝えるときは、それを達成することがメンバーの責任であることを強調するより、メンバーの成功に必要な情報として伝える。
- 勝ち負けによるインセンティブを避ける。ご褒美のような外的インセンティブを付与するよりも、メンバーにとっての意義などを感じさせるべきである。
- 結果を出すことへのプレッシャーを与えない。「やらされる」のではなく、「自らやろう」と思うことで最高の結果は得られる。
関係性に対する欲求とは、他人のことを気にかけ、他人に気にかけてもらいたい、自己を超えた何かに対しての貢献をしたいということです。関係性を深めるためにも、リーダーには様々なことができます。
- 与えられた仕事や目標に対するメンバーの気持ちを聞いてみる。メンバーの行動のすべてを受け入れることはできなくとも、すべての気持ちは受けとめてあげることはできる。
- メンバーの仕事に関する価値観を明確にし、その価値観と今の仕事や目標の関連性を見出すことを支援する。
- メンバーの仕事が尊い目的につながっていることを知らしめる。
実力に対する欲求とは、日々の仕事の困難を乗り越え、時間と共にスキルが向上し、自分が成長していると感じたいということです。メンバーの実力を高めるために、リーダーは次のようなことを心がけるとよいでしょう。
- 学びのためのリソースを確保する。業績が厳しいからといって、学びのための予算を真っ先に削るようでは、メンバーの成長を軽視していると思われてもしかたない。
- 学習に関する目標を設定する。
- 毎日の最後に、「今日で仕事はどこまで進んだのか?」と聞く代わりに「今日は、何を学んだのか?」と聞いてみる。
これらの3つの欲求は、マズローの説とは異なり、順番があるわけではありません。そして、これらはすべての人に共通してあるものです。職場において、これらの3つの欲求が満たされたなら、メンバーはモチベーションが向上するだけでなく、「仕事に向けた情熱」(employee work passion)が掻き立てられることでしょう。
最新の理論を実践するためには、リーダーの意識改革が求められます。メンバーをやる気にさせるためには、「何をメンバーに与えればよいのだろう」ではなく、「メンバーが、自律性、関係性、実力に対する欲求を満たすことをどう促進してあげよう」と考えるべきなのです。
情熱をもったメンバーは、リーダーの期待を超えるような働きをしてくれることでしょう。
そのための努力をリーダーは惜しまないでください。
この記事は、“What Mazlow’s Hierarchy Won’t Tell You About Motivation”
Harvard Business Review 2014. 11月号を要約したものです。
著者のSusan Fowler博士は、The Ken Blanchard Companiesのシニアコンサルティング・パートナー
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