ケンはどうやって上司にフィードバックしたか?
皆さんは上司にフィードバックをしたことがありますか?
皆さんの職場では、それは許容されていますか?
「部下が上司にフィードバックなんかしたら、上司の機嫌が悪くなる」
「上司に倍返しされてしまう」
と心配する方もいることでしょう。
今回ご紹介するのは、我らがケン・ブランチャード博士が、自ら上司にフィードバックしたときの実体験をもとに、その方法を解説した記事です。
ケン・ブランチャード博士は、世界有数のリーダーシップ論者であり、ケン・ブランチャード社の創業者。現在は同社のチーフ・スピリチャル・オフィサー。
フィードバックについてお話しましょう。フィードバックは、適切に伝えることができれば、業績向上のためにも、そしてお互いの関係にとっても、有益なものです。しかしフィードバックと聞くと、嫌なものという感情が湧いてくる方も多いでしょう。それは、フィードバックとは批判されること、一方的な見方を伝えられること、あるいは叱られることだと捉えられているからです。ですから、同僚や直属の部下にフィードバックするのは難しく、フィードバックする相手が上司となればなおさらです。
上司へのフィードバックの仕方
一例を挙げてみましょう。何年も前のことですが、私があるビジネススクールで教鞭をとっていた時、新しい学長が着任しました。その学長は、サーバント・リーダーシップの初期の形態である「参加型マネジメント」について多くの著作がありましたが、自身はそれを実践していませんでした。教員らに居丈高に接し、教員らの参画を促すことなく、トップダウンで様々な決定を下していたのです。何名かの教員は、学長の言動不一致について、それぞれが彼に率直に伝えることを決意しました。
問題は、彼らのうち誰も、学長と対決する前に、学長と心を交わすことをしていなかったということでした。そして、学長は、それぞれの教員からフィードバックを受ける都度、その教員をオフィスから放り出すという結果に終わりました。
これは、上位者にフィードバックをしようとしたときによくある間違いです。つまり、対決する(confront)前に関係を築く(connect)ことをし損ねるのです。言い換えれば、フィードバックをする前に上司との関係構築をしていないということです。上位者に影響を与えようとするとき、あなたにはポジションパワー(地位による力)はなく、せいぜいパーソナルパワー(個人としての力)しかないことを忘れてはいけません。なので、上司との関係ができていない状態でフィードバックをすると、どんなに優しく伝えたとしても、恐らく上司はまともに受け止めてくれないでしょう。
私はといえば、学長への評価については教員らの意見に賛同していましたし、学長の意思決定スタイルに懸念を覚えていました。しかし、自分の意見を伝えるためには、学長とどうにかして関係を築かなければならないと思いました。
誰かと関係を築くことは、銀行にお金を預けるようなものです。どんなに上手にフィードバックをしても、フィードバックすると、「その人との対人関係」という「銀行口座」からいくらか引き出されることになります。したがって、相手との良い経験を積み重ねることで、「口座の残高」を増やしておく必要があります。私は、学長に対して何らポジションンパワーを持ち合わせていなかったので、彼のスタイルについて懸念を伝える前に、「銀行口座の残高」を増やしておかねばならないと考えました。
ある日、廊下で彼を見かけたとき、私は彼の文章力にとても感心したと話しかけました。(彼が文章力に長けているのは事実です。) そして、「私は今、有力な雑誌に寄稿すべく、論文を書いています。学長は多くの執筆経験をお持ちですから、今度、会う時間を作っていただけませんか?私の最新の論文原稿をお見せして、フィードバックをいただきたいのです」と言いました。学長は、「はい、いいですよ」と即答してくれました。
その後、私は学長と会い、彼から論文執筆についてたくさんの有益なフィードバックをもらいました。さらに、後日、フォローアップミーティングをしていたときのことです。最後に彼が何気なく、「ケン、この学校にいる嫌なやつらに、我々はどう対処すべきだと思う?」と聞いてきたのです。ここで私が注目したのは、「我々」という言葉です。この言葉によって、自分のパーソナルパワーが功を奏して、学長との対人関係の「銀行口座」にいくらかのお金を貯められていることを認識しました。そして、私は、学長の意思決定スタイルを変えるとよいかもしれないと、気軽に彼に伝えることができました。私に対して安心感を持っていた学長は、身構えることなく私の進言を聞いてくれました。
フィードバックしてもらいやすい環境を整える
あなたはリーダーの立場にありますか?もし、そうだとしたら、あなたは部下からフィードバックをもらっていますか?ほとんどの人は、上司にフィードバックをするのは二の足を踏みます。悪い知らせのメッセンジャーになることを恐れ、率直な意見を言うことを躊躇してしまうものです。しかし、私の同僚であるリック・テイトの言葉を紹介しましょう。「Feedback is the breakfast of champions!」(注)
注)朝食をとらないと元気が出ないのと同じように、フィードバックがない組織には健全さや活力が生まれないことを意味する
親しみやすく、つながりを持ちやすいリーダーになりましょう。相手から話を聞きたいと心底思っていることを伝え、言い返したりしないことを約束するのです。フィードバックを受けるときは、部下があなたに贈り物をしていることを忘れないでください。まず 「ありがとう」と言ってください。そして、「とても助かります。他に私が知っておくべきことはありますか?」と続けます。
私の経験では、部下からのフィードバックのために心の扉を開くと、自分のリーダーシップスタイルを改善するために有益で、貴重な真実をたくさん学ぶことができます。
上下関係にかかわらず、相手への評価や判断を下さずに、フィードバックをやりとりすることは、優れた人間関係と良いビジネス結果の両方を達成しようとするリーダーが実践すべき行動習慣なのです。
原文はこちら
Giving Feedback to the Boss—and Receiving it Graciously (kenblanchard.com)
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