“有害上司”がサーバント・リーダーに変わるまで:あるコンサルタントの告白
「仕事はデキるけど、あの人の下では働きたくない!」と言われてしまうような“有害上司”、ときどき見かけますよね。もしかしたらあなた自身も、気づかないうちに“有害上司”になっている可能性も?
今回は、ケン・ブランチャード社でかつて“有害上司”として名を馳せたあるコンサルタントの赤裸々な告白をお届けします。どうして、そんな嫌な上司になってしまったのか、どうやって自己改革を成し遂げたのか。ケン・ブランチャード社シニア・コンサルティングパートナーのボブ・フレイタグ氏による記事をご紹介します。
原文はこちら
周囲から“有害上司”と見なされているような人たちは、ほとんどの場合、有害になろうと意図しているわけではありません。たとえば、プライドによってそうなってしまう場合があります。私の場合、自分を“有害上司”にしたのは「失敗への恐れ」でした。
私が“有害上司”になるに至る旅路には、エゴおよび不注意がありました。私は、当事者意識とアカウンタビリティが自然に発揮されるチームに憧れていて、そのようなチームを作るべくメンバーを助けているつもりでした。しかし、私の思考は自己中心的だったのです。結果を出すことに執着し、他人のニーズに忍耐強く対応しなかったために、私が望む結果を維持するために必要な人間関係が損なわれてしまったのです。自分が周囲に与える影響に責任を持たなかったことで、盲点が生まれていました。私は親しみにくい存在であり、部下との関係も断絶してしまっていました。そして、私が作り上げた職場環境は、メンバーのモチベーションが低く、厳しく管理され、言われたことしかやらないというものでした。
私は米海軍にいたころ、「つまるところ結果がすべてだ」と学びました。「もし感情が大切と言うなら、軍から提供される軍用袋に入っているはずだ。リーダーとしての自分の仕事は、部下に明確な期待値を示し、誰よりも仕事ができるように訓練し、無事に帰還させることだ」と考えていたのです。私は結果を出すことだけに集中し、人間関係には無頓着でした。「結果を出せるかどうかは人間関係次第であり、人間関係は信頼の下に構築される」ということを、当時は理解していませんでした。
初期段階では、結果を出すことに特化した考え方とスキルを発揮したことが功を奏し、私は早くに昇進しました。結果を出すために必要な職務規範を徹底させるのが得意だったのです。また、退社する人への面接や新入社員教育も得意でした。自分には善良な心があり、部下の成功のために尽力していると信じていました。しかし、やがて私はキャリアに行き詰まり、結婚にも失敗しました。
私の主たるリーダーシップ戦略は、チェックリストの活用でした。どのチェックリストを使うべきかを指示するチェックリストまでもがありました。このやり方は、乗組員を安全に帰還させる責任を負っていた潜水艦においては、うまく機能しました。が、もちろん、私の部下に対する扱いの悪さを正当化することにはなりません。チェックリストに頼りすぎたことによって、乗組員たちは、私が自分たちを信頼してくれていないと感じていたことを後になって知りました。
私の“有害上司”への旅は、1990年4月13日に頂点に達しました。私のチェックリストによる管理法は、職場で大成功を収めたので、家庭でも定期的に使うようになりました。妻との家族旅行を計画していたときのことです。私は、彼女に電話して、手渡していた新しいチェックリストの進捗状況を尋ねました。妻はチェックリストを一通り私に説明してくれましたが、マイクロマネジャーである私は、彼女が見落としていた2つの項目を即座に指摘したのです。
彼女はしばらく黙っていました。そして、「この件は後で話しましょう」と言いました。
その声のトーンは不穏なものであり、同時に聞き覚えのあるものでありました。それは、職場のメンバーたちの声のトーンと同じだったのです。が、職場では、自分はそのことにすっかり鈍感になっていました。
帰宅すると、家には誰もいませんでした。心配で心配でたまらなくなり探したところ、妻は子供たちと一緒に実家にいることがわかりました。手短に言うと、妻は、自分が夫に信頼されているとはもはや思えなくなったのです。
私のチェックリストに関する苦い真実が明るみにさらされました。私は、相手が乗組員だろうと妻だろうと、他人を信用しておらず、彼らの成功を自分がコントロールしようとしていたのです。
その夜、私はいろいろと悩んだ末、妻に尋ねたい4つの質問を書き出しました。その質問を読み返すと、異動を希望する乗務員に聞く質問と似ていることに気づきました。私はその瞬間、愛する妻に自分ができるのは「退社面接」を行うことだけなのだと悟りました。
幸いなことに、私は自分がしていることを自覚できるほどの自己認識力を有していました。このとき初めて、自分の周りで起きる様々な問題の原因は自分にあるのだと悟ったのです。
得られた教訓
私の結婚生活は終わりました。その原因が私の有害なリーダーシップ・スタイルにあったことは否定できません。それから9ヶ月間、私はリーダーとしての自分を理解するのに必死でした。自分の行動を変え、自分の意図が周囲にポジティブな影響をもたらすようになることを決意しました。そして、2つのことを心がけるようになりました。「正しいことをやっている人に気付くこと」と「話を聴いてもらっていると相手が感じるように、相手の話を聴くこと」の2つです。
9か月後には、異動を希望する部下はいなくなりました。さらに、私の下で働きたいと言ってきた人までもが出てきました。これはいい方向に向かっている証拠だと思い、努力を続けました。
多くのマネジャーは、有害なリーダーシップをとりたくなることに抗うのに苦労しています。統計がそれを証明しています。私が癒しを求めて旅を続ける中で、有害なリーダーシップについて、そして私自身について学んだ教訓を以下に紹介します。
その1:“有害上司”は、他者中心ではなく自己中心的である
“有害上司”は、他者中心ではなく、まったくもって自己中心的です。
ここで、自分のやり方を知る方法を一つ紹介します。あなたを撮影した過去1週間のドローン動画を再生するように頼まれたと想像してください。その中であなたはどんな行動をとっていますか?その映像には、完全に結果にこだわっていて行動するあなたが映っているでしょうか?意図的に人々と信頼を築くために、あなたは何をしていますか?人々は、あなたから答えを得ようと、あなたへの依存度を高めていますか?それとも依存度は低くまっていますか?
その2:“有害上司”は、「援助」ではなく「解決」する
“有害上司”は、相手を助けるよりも、問題を解決する傾向があります。この2つの違いを理解していないのです。
- 問題を解決することは、メンバーをあなたに依存させることになります。
- 相手を援助することは、相手が自分の手で解決する力を与えることになります。
問題解決に終始することは、あなたを酔わせ、中毒にさせます。自分は職場に不可欠な存在なのだと感じるようになり、自我を膨らませ、より一層、自己中心的になっていきます。
自分の指紋があらゆるものに付いていて、メンバーらが何らかの決定を下すために都度、自分のところに来ることに快感を覚え始めたら、自分は有害になりつつあると認識すべきでしょう。あなたは「なぜ皆は何でもかんでも私のところに助けを求めに来るのだろう?」と思うかもしれませんが、それは、彼らの問題を彼らが自分で解決する方法を教える代わりに、あなたが解決してしまっているからです。
良かれと思ってやっていることが有害になってしまう可能性はあります。私は、メンバーと面談を行うときは、いつも直後に「面談の結果、この人は私への依存度が高まったか、低まったか」という重要な質問を自問自答するようになりました。もしその答えがわからなければ、あるいは相手の依存度が低まっていなければ、私は相手を援助する機会を逸してしまったのだと気づきます。
その3:”有害上司“は結果にだけこだわる
”有害上司“は、結果のみに集中しています。人間関係に気を配るとすれば、それは結果を出すための手段としてです。一方、サーバント・リーダーシップは、”有害上司“の対極にあり、常に結果と人間関係の両方を考慮します。
結果のみを重視することは、破壊的で非倫理的な行為につながる可能性があります。最悪の場合、“有害上司”は、個人的な利益のために企業文化を破壊する可能性があります。自覚がなかったり、良心的な人が周りにいなかったりすると、自分を欺き、破滅に追い込むこともあり得ます。結果を出すスピードは人間関係に依拠し、人間関係のスピードは信頼に依拠することを心に留めておいてください。
その4:“有害上司”は、物事がうまくいかないときだけフィードバックをする
”有害上司“は、ポジティブなフィードバックをすることはほとんどありません。フィードバックをするときは、大抵の場合、何かがうまくいっていないときです。軌道修正のためのフィードバックは頻繁に行いますが、褒めることはあまりしません。”有害上司“はまた、褒めるフィードバックと軌道修正のためのフィードバックの比率が最低でも5対1であるべきことを忘れています。メンバーを活性化し生産的にしたいなら、彼らに軌道修正のフィードバックをする回数の5倍、褒めるフィードバックをするべきなのです。ケン・ブランチャード氏の言葉を借りれば、「正しいことをしている人に気づくべし」ということです。
その5:”有害上司“の下では、信頼関係が低くなる
”有害上司“の下では、管理が厳しく、メンバーのコミットメントレベルが低下し、信頼度の低い環境が生まれます。”有害上司“は常に部下が自分の言うとおりに動くよう強要します。このような状況に陥っているときの兆候は、さほど困難でもないはずの事柄について、部下が頻繁に相談してくることです。上司としての権威をかざすことはリーダーシップではありません。
部下が善意を持っていることを信じましょう。部下が安心してあなたに近づけるような環境を整えましょう。部下には幸福感と心の安全が必要です。そうすれば、あなたが要求する仕事をするために何が必要か、あなたに伝えることができます。彼らが成長を望んでいるのであれば、良き仕事をするパートナーになりましょう。一方的に話すのを止め、代わりに彼らと対話しましょう。彼らが抱える課題のための時間を作りましょう。何がうまくいっているのか、何を学んでいるのか、何を変える必要があると思うのか、話し合うのです。相手が、自分の話を聴いてもらえていると感じられるような聴き方をしましょう。
その6:時間の経過と共に“有害上司”になる
”有害上司“になる過程では、価値観の妥協が起こります。意識的に妥協しているのではなく、習慣や行動がゆっくりと生み出されていくのです。いわばエントロピーの一種といえるでしょう。これが起きる原因は、メンバーのことを、結果を出すための人材以上の存在とは思わず、自分の行動が部下に与える影響を考えないことです。その代わりに、彼らの行動が自分にどのような影響を与えるかに焦点を当ててしまっています。
毒性は時間の経過とともに起こります。徐々に、あなたは人間関係に気を使うことが少なくなっていきます。それは、あなたの人格をゆっくりと、そして確実に破壊していくのです。
サーバント・リーダーシップへの転身
私は今や本物のサーバント・リーダーになりました。。私は、謙虚な姿勢と自己認識をもって、自分をボブ2.0と呼んでいます。サーバント・リーダーシップは、“有害上司”の対極にあるもので、日々の鍛錬が必要です。この人生の新しい章では、私は好きな仕事に就き、再婚し、毒のあるやり方を二度と繰り返さないと決心しています。毎日、私は正しいことを選択しなければなりません。私は自分自身ではなく、他者に焦点を当て、お互いの行動や、お互いの係り合い方を意識するようにしています。もし、自分が以前のやり方に陥っていることに気づいたら、すぐに修正します。
日常生活というものは、自分が意図したことの証しです。私たちは、常に自分の行為を通じて人々を導いていますが、私たちにある唯一の選択肢は、どのような行為をするかということなのです。
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